企業不正に立ち向かう仕事~意外と重要な注目の仕事
昔から、企業の不正は頻発しており、最近もそうした報道がされていました。
不正をやってしまい、それがばれると、企業はユーザーや社会からの信頼を失い、倒産したり経営が成り立たなくなるのですが、それでも不正はなくなりません。
これを受けて、企業不正を防ぐ仕事の重要性は高まっています。
■不正のタイプ
「企業の不正」にもいろいろなものがあります。代表的なものを挙げてみましょう。
・製品の品質に関する不正
例えば電気製品やIT機器であれば、製品の品質と実際の品質が、カタログで書かれているより劣っているケース。CMの誇大広告もこれですね。
また、食品の場合だと、食品成分表示に嘘があって、実はそば粉などのアレルギー物質が入っているケース。これは命にも関わるので大変重大な不正です。
・会計不正
決算書の数字がよく見えるように意図的に売上額を水増しするようなケース。最近は手が込んでいてわかりにくいものも多いようです。
・環境不正
例えば工場からの廃棄物は一定基準で浄化する必要がありますが、それをせずに排出してしまうケース。これも社会への影響は甚大です。
■不正をしてしまう動機
個人の犯罪や不正は、個人的な憎しみが原因である場合や、不正をすることで社会を手玉に取るような愉快犯的な面から起きる場合も多いと思いますが、企業の場合はこうしたケースは稀だと思います。
ではなぜ企業は不正をしてしまうのか?その多くは、「自分(の会社・商品)をよく見せたい」、つまり今風に言えば「盛ってしまう」というのが動機だと思います。
つまり、「他社に劣後する商品しか作れないが、売上を増やしたい」とか、「業績が悪いのを銀行に知られたくない」、といったことです。
思い付きや興味本位でやっているわけではなく、必要に迫られて実行しているということですね。
ばれた時に信頼を失い経営に大ダメージがあることは認識しつつも、背に腹は代えられずに不正をやってしまうというケースが多いように思います。
■不正を防ぐ仕組み
最近は、企業の不正を防ぐシステムがいろいろ整備されています。
まず、企業内での予防システムとしては、内部監査や、品質管理部署による製品チェックなどがあります。
ただこれは、経営者がその気になれば、無効化されやすい面があります。
なぜなら、これらチェックをする人たちも、その企業に雇われてお給料をもらっているからです。
もし経営者から圧力をかけられたら、不正を見つけても言えない、といった状況が想像されます。
なので、企業外の仕組みとして、税務調査、所轄官庁による検査、会計士監査なども行われています。
ここで、税務調査や所轄官庁による検査は、当局からの検査なので強制力もあり、権限を持った検査といえます。金融機関を舞台にした人気ドラマでも、当局の検査官が会社に乗り込んで強制捜査をしていましたよね。
ただ、当局の検査は省庁によって強度が違う面があり、すべての企業やビジネスがこうした検査で網羅的に監視されているとも言えない面があります。
また、会計に関しては会計士監査が重要な機能を担っていますが、当局と違って強制力は弱いので、経営者が情報を出し渋ったり、会計監査契約を打ち切ると言ったりすると、なかなかその機能が果たせない場合も生じます。
まだまだ課題があるということです。
■不正発見の新しいしくみ
最近は、ITやAIを活用した新しい不正予防システムが構築されてきています。例えば、コンピュータを使い、過去のメールの履歴を全部調べて怪しいやり取りを見つけ出すとか、変な時間に大量に会計伝票が処理されていたりしないかを調べたりします(これらはフォレンジックと言われます)。
また、多くの会社では、セキュリティカードで入退館を管理し、PCのログで経理システムなどへのアクセス履歴も記録しています。貸与スマホのGPS情報で外出先での行動履歴を記録しているという話もありますので、不正の証拠がキャッチしやすい状況になっているといえます。
■企業不正の防止にかかわる仕事
上記で述べたように、企業不正を防止するために様々なしくみがあり、これらには一定の専門性を持った人が従事しています。
ここでいう専門性には、製品不正関連であればその製品の製造過程や法令・承認基準といったルールに関する知識が必要ですし、会計不正関連であれば会計に関する専門知識が必要です。
こうした固有領域の知識に加え、最近のIT化に対応するための「ITに関する知識」も必要です。
少し話がずれますが、ハッカーによる不正アクセスが最近よく聞かれますが、これに対応するために、警察などが元ハッカーだった人を採用しているのはよく知られた話です。
また、企業不正を検出して正していくためには、上記に加え、「健全な正義感」、「経営との独立性」、「不正が起きやすい環境を理解する力」なども必要と思います。
■最後に
不正を防ぐ仕組みや機能は、製品やサービスを作るといったビジネスそのものではないので、地味で、特に若い人は良く知らない領域だと思います。
しかし、ひとたび企業不正が起きれば、企業の評判をいっぺんに落としてしまいます。
ビジネスを拡大する活動を「アクセル」だとすると、不正を防ぐ仕組みは「ブレーキ」で、両方が大事だと思います。
幸い、最近は不正防止を含めた企業のリスクマネジメントの重要性が認識されてきており、下世話な話ですがこうした業務に従事する人の企業内の処遇も昔より良くなっていると思います。以前は内部監査部というと定年前の「上がりポスト」と言われましたが、今は若手の精鋭が行くことも珍しくありません。
社会人としての仕事の一つとして、あるいは企業を興したい人が自分の会社の成長のために、こうした話もぜひ知ってもらえるとよいと思います。
なお、今回は企業不正を取り上げましたが、公的団体や政治家などについては不正防止の仕組みが弱いように思います。このテーマについては改めて考える機会を持ちたいと思います。