企業年金:確定給付か確定拠出か
今日の某新聞で「確定拠出年金の加入者数が確定給付年金のそれを超えた」という記事がありました。
この新聞では、たびたび「確定給付オワタ」「これからは確定拠出」というスタンスの記事が多いのですが、これは本当でしょうか。
今回は、公的年金に加えて我々の老後の生活を支える企業年金のあり方について考えてみます。
■両制度の仕組み
本題に入る前に、両制度の特徴を確認しておきましょう。
確定給付年金は、年金給付額の計算式があらかじめ決まっている制度です。
例えば「退職した時の月収の30%」といった決め方をし、企業は従業員にこのような年金を支払うことを約束します。
企業は、この額を支払うため、資産運用をして資金を積み立てるのですが、資産運用で失敗すると資金が足りなくなるので、その分を会社が埋め合わせる必要があります。
一方、確定拠出年金は、企業が一定の計算式で計算した掛金を従業員の年金口座に振り込み、従業員がこの資金を資産運用して、たまったお金の中を使って自分の年金のする仕組みです。従業員が資産運用で失敗しても企業は穴埋めする必要がありません。
■これまでの経緯
日本では20世紀後半に企業年金の普及が始まりましたが、当時は確定給付年金しかありませんでした。
しかし、バブル崩壊などを背景に、2001年に確定拠出年金も実施できることになり、その後約20年をかけて普及が進んできたわけです。
なぜ確定拠出年金の導入が進んだか?
まず、バブル崩壊後に資産運用環境が悪化して、確定給付年金での資産運用がうまくいかなくなり、穴埋めのために企業が年金の掛金引き上げを強いられるケースが増えたことが挙げられます。2000年にこれに関する企業の会計基準が厳しくなったことも影響しています。
確定拠出年金では企業が穴埋めをする義務がないため、企業に好まれるようになったわけです。
■確定拠出年金の課題
一方で、確定拠出年金の普及にはまだ課題も多くあります。
まず、従業員自身が資産運用する仕組みに対してまだ根強い反対論があります。金融機関の社員ならいざ知らず、普通の人は「資産運用しなさい」と言われてもそう簡単にはできないということです。企業は従業員に一定の投資教育をすることになっていますが、現状をみると従業員の理解度は芳しくはないようです。
また、上記とも関連しますが、企業の財務などのメンバーがまとめて資産運用をする確定給付年金と比べ、確定拠出年金ではすべての従業員が個々に運用をするので、運用の効率が良くないという指摘もあります。これは年金先進国のアメリカやイギリスでも似た状況があるようです。
■今後の展望
記事では、今後すべての企業年金が確定拠出になるようなトーンに見えますが、筆者は必ずしもそうとは言えないと考えます。
まず、上で述べたように、確定拠出年金には種々の課題があり、従業員の労働モチベーションに悪影響が出たり、運用が非効率になったりすることが挙げられますので、確定拠出年金への移行が企業にとってベストの選択とは言えない場合もあると思います。
また、現存する確定給付年金では、目標運用利回りの引き下げなどの財政健全化が進んでいるケースも多く、企業にとって追加負担が多く出る可能性が小さくなっている面もあります。ちなみに海外では終身年金(受給者が生きている限り年金を払い続ける)が主流で、寿命が延びると追加の負担をしなければならないのですが、日本の企業年金はこの仕組みをとっていない場合がほとんどで、この「長生きリスク」がない点で恵まれています。
このように、あえて従業員の不満を生んでまで確定拠出年金に移行しなくてもよいと考える企業も少なくないかもしれません。
とはいえ、世間の空気の影響は大きいので、そうした「風潮」に乗っかって確定拠出年金に移行する企業もありそうです。逆に言えば、従業員のことを考えて確定給付年金を継続する企業は、ある意味「ホワイト企業」といえるかもしれません。
■おわりに
企業年金は、従業員自身で選べるわけではなく、自分の勤務先の企業がどう考えて制度を実施するかに左右されます。
従業員ができることは、
・そもそも自分の会社がどんな企業年金をやっているのか?
・確定拠出だった場合に自分はどう資産運用したらよいか
といったことになると思います。
公的年金だけではゆとりある生活が送れない今後、企業年金のこともよく調べておいて損はないでしょう。