わっちのコンサルブログ~難しいことを簡単に

コンサルタント稼業のわっちが、経済やビジネスに関するトピックについて語り、時に問題提起します。週に1、2回の更新を目指します。

投資の理論 基礎の基礎(その1)

0.はじめに

コロナ禍で経済活動の低迷が心配されましたが、個別には厳しい状況の業種もありますが、全体としては意外に堅調です。

こうした背景もあってか、世界の株式市場はこの1年間活況であり、日本の株も日経平均が30年ぶりに3万円の大台を記録しました。

加えて、人生100年時代と言われる中で老後資金の確保をどうするかは、多くの人の関心になっていると思います。

 一方で、日本人は投資に不慣れな人も多く、投資への不安や不信感がある人もいるでしょう。

 そこで今回のブログでは、投資を理解するための「理論」を、できるだけ平易にわかりやすく解説してみたいと思います。

 長くなるので、2回に分けて解説します。第1回目は総論的に、投資に伴うリスク(不安)をどう捉えればよいかを説明し、第2回では、現実の投資の方法について具体的に説明します。

 

1.投資理論とは?

 

「株価は不確実で将来どうなるかが予測できない」というのが多くの方の印象だろうと思います。

しかし、この問題に果敢に挑戦してきた先人がたくさんいます。そして、ある程度までは株価を理論的・具体的に評価する枠組みが出来上がっています。アメリカはこうした研究が最も進んでいる国であり、これらを総称して

 

    現代投資理論(Modern Portforio Theory、略してMPT)

 

といいます。

 

もちろん現実は生き物ですから理論どおりにならないことも少なくありません。予想が外れることもあります。ですが、一定の条件をおけば、こうしたリスクをかなりの確率で回避でき、結果として大きな果実を得ることも可能になります。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」といいますが、虎の習性を知って例えば虎が獲物を取りにでている時間が予想できれば確実に虎児を得ることができます。作戦なしにやるのとは違うわけです。

 

ということで、投資理論というのは、一言で言えば「いかにリスクを避けながら、高い目標に近づくか」という理論だといえます。もう少し詳しく言えば

「株価が上がりそうな銘柄を見つけ、下がりそうな銘柄を避けること」

とか

「下がる可能性を低くすること」とか「途中で価値が下がっても困らないようにすること」

などを目指すものともいえます。

 

さて、投資理論は数学(統計学)と密接に関係しています。株価などを予測する上では数学が有効かつ合理的だからです。以降のお話では時々数学を用いますが、拒否反応を起こさないようにできるだけ簡単に説明していきます。

 


2.投資のリターンとリスク

 

(1)リターンとリスク

 

投資の計画を立てる上で必要なのが「この商品はどの程度の利回りが期待できるのか」「それは確実に期待できるのか否か」という数字です。それぞれに対応するのが「期待収益率」、「リスク」です。

 

期待収益率は読んで字の通りであり、理解しやすい概念だと思います。問題はどうやって予測するかです。実際、「期待収益率はあまり当たらない」という研究もある位です。

 

一方、「リスク」という言葉は現実には色々な意味で使われます。直訳すると「危険」ということになりますが、投資における広い意味での「リスク」は「価格が値下がりすること」と「おカネが必要なときに引き出せないこと」の2つに集約されると思います。しかし、現代投資理論でいう「リスク」はもっと狭い意味で「期待収益率からどの程度外れるか」ということを意味します。

 

例えば「定期預金」は金利が決まっているので1年後にもらえる額は決まっており、狭い意味でのリスクはゼロということになります(←→銀行が倒産する可能性を考えると、広い意味ではリスクゼロではない)。

対して、日経平均株価を例に取ります。例えば、現在3万円の日経平均株価が「1年後に3万3千円になる」との説を前提にすると、これは今より3千円程度の値上がりを予想しているわけですから、期待収益率は10%(=3千円÷3万円)ということになります。しかし確実に3万3千円になるわけではなく、2万5千円に下がる可能性もあるし、逆に3万5千円まで上がる可能性もあるわけです。

 

このような「期待収益率に対するぶれの大きさ」を計数化したものが「リスク」です。

 

前に紹介した研究ではこの「リスク」は比較的過去の実績から予測できるとされています。「1年後に3000円程度の予想のはずれはありうるものの、1万円も外れる可能性は小さい」ということです。まああたりまえの話ですが、これを具体的数値にすることに意味があります。具体的数値にすることで、日本の株式だけでなく国債や海外株式などの特性を比較し、これらの資産を組み合わせた時に起こることを予測できることに意味があるわけです。

 

 

(2)リスクへの「態度」

 

人間がリスクをどう考えるかはさまざまですが、大きく分けると「リスク愛好者」と「リスク回避者」の2つに分けられます。

 

○「リスク愛好者」

 

投資理論で言うリスクとは、「期待値からはずれる可能性」を意味していると説明しました。

ということは、いいほうに外れることも「リスク」であるということです。

リスク愛好者はまさに「いいほうに外れる」ことを期待して行動している人です。

宝くじを買うときの人間はまさに「リスク愛好者」としてふるまっています。

競馬は?・・・見解の相違はあるでしょうが、筆者はこれもリスク愛好者的行動と認識します。

こうした「いいほうに外れるリスク」を狙って、外れるリスクの高そうな投資対象に積極的にトライする人を「リスク愛好者」といいます。

 

○「リスク回避者」

こちらは逆に「悪いほうに外れる」ことをリスクと考え行動する人を指します。

一時期、銀行がつぶれそうだということで、預金をつぶれそうもない銀行へ移しかえる動きが活発化しましたが、これはまさにリスク回避的行動です。

 

 

さて、現代投資理論では、一般には「リスク回避者」の立場で物事を考えます。従って、「リターンが大きいほうがよい」というのは誰でも同じ考えでしょうが、「リスクは小さいほうがよい」と考えるわけです。以降の説明ではこうした前提が含まれていることを覚えておいてください。

 

 

(3)「ポートフォリオ」によるリスクの分散

 

株式の価格は不確実ですが、こうした不確実さを小さくするにはどうしたらいいでしょうか?

その一つの答えは、「ポートフォリオ」をうまく構成することです。

 

株式といっても色々あります。伝統的な大企業の株もあればベンチャー企業もありますし、製造業の株があればサービス業もあり、ということです。そして、各々の特徴を反映して、これらの株価の動きは同じではありません。

例えば一昨年のように金融危機が起これば体力のない小企業は売られやすいし、そのときの業績や注目度によって業種毎の値動きは異なります。

こうしたことを考えると、ただ一つの会社の株を買うよりも複数の特性の異なる株に分散して投資したほうが「値下がりの可能性を極力小さくする」ことになります。なぜなら、どの株も同時に安くなる可能性は、ある特定の株が値下がりする可能性よりかなり低いからです。ただ一つの会社の株に投資した場合はその企業が倒産すると資産はほとんどゼロになってしまいますが、分散投資していれば被害は何分の1ですみます。

 

さて、現代投資理論では、こうしたことも数値化して評価します。A社の株とB社の株に分散投資するとすると、A社株とB社株の値動きの相関関係を数値化するのです。つまり

「A株が10%値下がりする場合B株はどの位値下がり(値上がり)するか?」

を考えるわけです。

 

ここで、

 

  ①「A社株が10%値下がりする場合にB社株も10%値下がりする」

 

のだとすると、分散投資の意味はありません。A,Bが同じ業種、規模、であればそのような関係にあることもあります。逆に、例えば「石油会社のように、円高になると原油が安く調達できるのでもうかる企業」と「輸出企業で円高だと減益になる企業」の株は、

 

  ②「A社株が10%値下がりする場合にB社株は8%値上がりする」

 

ということになり、こうした企業の株に分散することは「分散投資」によってリスクの減少がはかられることになります。

 

さて、上記で説明した、相関関係をあらわす数値を「相関係数」といいます。統計学で習った覚えがある人も多いでしょう。上記の①のケース(A社株が10%値下がりする場合にB社株も10%値下がりする)では相関係数は「1」となり、②のケース(A社株が10%値下がりする場合にB社株は8%値上がりする)では「浪貼0.8」となります。こうした数値をうまく用いれば、さまざまな特性をもつ多数の株式をうまく組み合わせて、リスクの小さいファンドを作ることが可能になります。

 

尤も、この「数値」は一般に過去の実績で計算しますから、将来の環境の変化に左右される可能性があり、絶対的なものではありません。A社がM&Aをやって全然違う業種の部門を傘下に持ったなら、過去の実績はあまり役に立たなくなってしまいますよね。

 

さて、この議論は、株式の銘柄についてだけではなく、「株と国債」などにもあてはまります。一般に金利があがると債券の魅力が増し、安全性で劣っている分だけ株価は下がると言われています(最近はかならずしもあてはまりませんが)。つまり浪貼の相関があるわけです。よって、株と債券に分散投資することは、将来の金利の変化が起こってもファンドの価値を極力減らさない策になるということです。

 

なお、あくまでこれは「リスク回避者」の立場からの議論であり、「リスク愛好者」の立場からは逆です。つまり、「ある特定の会社の株が2倍になる」場合はその株に100%投資する方が分散投資しているよりも結果が良くなるのは自明です。リスク愛好者はそれを期待していくわけです。ちょっと怖いですけどね・・・。

 

ここまででお話したことはリスクを抑える方法の一つで、「銘柄分散」とか「資産分散」といわれています。一方で、「時間分散」というリスク抑制策もありますので、次はこれについて説明します。

 

 

 

 

 

======コーヒー・ブレーク========

 

「一つのかごに全部の卵をいれるな」

 

これはアメリカの格言で、分散投資の有意義さを訴えています。

かごを落とすリスクを考えると、いくつかのかごに卵を分けて運べば、もしもかごを一つ落としても割れる卵は一部だけで済むいうことです。

尤も、あまりかごを持ちすぎるとかえってかごを落としやすくなりますから、単純に分散すればいいわけでもありませんが…。

ちなみにアメリカには「エリサ法」というのがあって、年金基金の運用担当者は分散投資を心がけることが従業員の利益に対して「忠実」であるとされています。実は日本の企業年金でもこうした考え方が取り入れられています。法律にまで取り上げられているわけですね。