コロナと新人教育~大学生より大変かも
コロナで激変した我々の生活。
最近のニュースなどでは、新たに大学に入った学生たちがオンライン講義のみで大学に行けず、友達ができない、実家からリモートなのに下宿代はかかる、バイトができず生活が苦しい、それでも大学の授業料は変わらない、といった問題点が指摘されています。また就活の大変さも出てきているようです。
一方で、昨年までに無事に就職できた新人や若手の教育においても、在宅勤務が主となる中でさまざまな課題があるように感じます。
■これまでの新人教育
日本の場合、新卒採用が主なので、会社に入ったばかりの新人の大半は、すぐに一人で仕事ができるわけではないと思います。なので、集合研修で基本的なことを学びつつ、職場に配属された後もOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で仕事の細かい手順や進め方を学んでいきます。大学は職業訓練の場ではないので、こうしたことはあまり学べませんし、また会社においても業務の手順や進め方などは会社ごと・部署ごとに異なる場合も多いので、OJTの役割は大きいと思います。
研究職であれば、大学での研究活動の延長戦でできる面もあるかもしれませんが、それでも、大学の時はお金やビジネス化のことをあまり考えないで取り込めたのが、会社に入ればこうしたことを考える必要があり、他の部署(商品開発部門や企画部門など)とのコミュニケーションも必要であり、この辺はOJTが必要と思います。
さて、新人・若手教育で身についてもらうべきことは何でしょうか?思いつくものを列記してみます。(もっとあるとは思いますが)
項目 |
内容 |
就職前に得られるか? |
担当業務の基礎知識 |
業界知識、業務に関する法律など |
ある程度可能 |
汎用的な知識・能力 |
IT知識、語学、会計など |
かなり可能 |
担当業務の固有知識 |
会社のルール・システム |
得られない |
会社のルール |
役割と権限、各種ルール(勤怠管理・経費精算・報連相など) |
ほぼ得られない |
ビジネスマナー |
挨拶、電話対応、名刺交換、言葉使い |
ある程度可能(バイトなどの経験で) |
企画力・交渉力 |
新規業務や業務改善を企画し、それを認めてもらって実行するなど |
ある程度可能 |
スケジュール管理・タスク管理力 |
複数の業務を並行して期限通りに終わらせる能力 |
ある程度可能 |
チームワーク力 |
自分の役割を認識して他のメンバーと円滑に協力できる力 |
ある程度可能 |
コミュニケーション力 |
相手に自分の要望を受け入れてもらえるような関係作り力(逆も必要) |
ある程度可能 |
■コロナと新人教育
コロナによって在宅勤務が多くなった職場も多いと思いますが、それによる新人教育への影響はどのようなものがあるでしょうか?
まず、多くの研修はオンラインで提供されるようになっていると思います。
例えば、新人全員に共通するテーマ(例えば会社の部署の紹介や、勤怠管理といった共通ルールなど)はビデオコンテンツを流すことでできるので問題はないと思います。マナーなどの研修も、少人数でインタラクティブに行えばそれなりに教育できそうです。
また、部署ごとの業務関連知識やルールについても、上司や先輩がオンラインで説明することが可能と思います。
ただしその前提として、業務関連知識やルールが網羅的に整理されていないと、説明の漏れが生じます。これまでだと、こうした説明漏れがあっても、実際の業務中に先輩が気付いてタイムリーに指導してくれたり、一緒に仕事をしている同僚が補足してくれたりしてカバーできたと思いますが、在宅勤務下ではこれが難しくなっていると思います。
なので、これまで暗黙知であった業務関連知識をできるだけ文書化やAI化していくことや、ルールに関するものはできるだけシステムでチェックするといったことが必要だと思います。
また、「企画・交渉力」や「コミュニケーション力」いわゆるソフトスキルについては、座学で身に付けるのは難しく、これまでは上司や先輩の立ち振る舞いを見て学んだり、上司・先輩が新人の行動ぶりを見てタイムリーに欠点を指摘して直していくことも多かったと思います。そう、コロナ禍では、この「他人の行動から学ぶ」ことや「他人に見てもらって指導される」ということが難しくなっているのです。
さらに、わからないことがあった時に、「誰に聞けばよいかわからない」「こんなことを聞いていいのか心配」という人も少なくないと思います。
このままだと、仕事に必要なことが身につかないまま中堅社員になっていき、企業の競争力や実務能力が低下し、社会に提供される商品やサービスの質も低下していくのではないかと懸念します。
この辺りは対応がなかなか難しいですが、上司や先輩ができるだけ一緒に仕事をする機会を増やすとか、部下との定期的なミーティングの実施、あるいはVRや動画コンテンツなどを使ったベストプラクティスの紹介、そしてプレゼンや営業トークのロールプレイングの実施などで対応していくことはできそうです。
■若手のメンタルケア
上記のように仕事をなかなか覚えられない悩みに加え、人とあまり接しないで過ごすので、精神的にも不安が大きくなりがちです。悩みの内容は、仕事に限らず、人間関係だったり、家族のことだったり、自分の健康だったりするかもしれませんが、特に奥ゆかしい人・おとなしい人が知らず知らずに悩みを抱えていることを周りがなかなか気付いてあげられないこともありそうです。
こうしたことでメンタルを病んだり、会社を辞めてしまったりするのは、本人はもちろん、会社にとっても大きな損失です。
メンター制度やインストラクター制度を設けて、部下が先輩社員に気軽に相談できる仕組みを設ける企業も多いですが、これの運用をより充実させることも必要かもしれません。
■まとめ
今回の要点を箇条書きでまとめておきましょう。
・コロナ禍により、新人や若手の教育は今まで通りには実施できなくなっている。
・若手の育成が不十分だと、企業の力を低下させ、社会に提供される商品やサービスの質にも影響する。
・特に独学で身に付きにくいスキルをいかに身に付けるかが重要な課題。
・企業内の暗黙知を文書化・AI化していくことなど、ITの活用は有益
・先輩や上司のきめ細かい指導が今こそ重要
ではまた。