お金の話は「はしたない」?~学校で、家庭でもっとお金の話をしよう~
ここ数年、現在および将来のお金への不安が高まり、メディアもお金をテーマにしたニュースや記事をたくさん出しています。(ちょっと煽り気味ですが・・・)
一方、お金をめぐる失敗に苦しむ若者も散見されます。クレジットカードの使い過ぎや、実質的にローンである奨学金を返せなくなるケース。あるいは投資系の詐欺まがいの事件もあるようです。なので、若いうちからお金の教育をすることがとても大事になっています。
ですが、若い世代へのお金の教育は、実際は今一つ広がっていないように思います。
教える先生がいない、今の先生がお金のことを知らないなど、色々な理由が挙げられますが、実は、お金の話題を「はしたない」と考える価値観が根強いのが大きな理由の1つだと筆者は思います。つまり、学校でも家庭でも、お金の話題をすることが憚られる感覚が残っていて、そのことが、お金のことを学んだり話し合ったりする機会の妨げになっているように思うわけです。
そんな中、先日テレビを見ていて、某国民的ボードゲームの開発者は、50年ほど前、会社の上司や周囲に大反対されつつも押し切って発売したという話を聞きました。また、10年ほど前ですが、某ファンドが株を買い占め、そのファンドの経営者が「金儲けして何が悪いんですか」といった発言もあって社会問題になったことを思い出しました。
これを振り返ると、50年前も15年前も、その時の世論(というかメディアの論調かもしれません)は、金儲けにはネガティブな価値観があると思います。もっといえば、お金の話をすること自体にネガティブな感覚があるというのは変わらないなと思います。
でも、これってよく考えると、大事なことに蓋をするというか、見ないふりをすることにつながっていると思います。
どうしてこういう価値観が根付いているのか?これは筆者の想像ですが、お金のことを考えさせないことが、世の中を治める人達にとって便利だったからではないかと思います。
つまり、「お金のことや政治のことなんて考えずに、自分の生まれた村で田畑を耕して年貢を納めればよいのだ」ということですね。お金を持つことで余裕ができたり力(パワー)を持つ人が出たりすると、為政者にとっては自分の座が危うくなるリスクが生じるわけですから、そうさせないような価値観を植え付けたということかなと思います。
しかし時代は変わり、どこに住んでどう働くか、どう生きるかを自分で考えることが求められる時代になりました。こうした時代に、自分の身を守り、自分の人生を豊かにするには、お金の話に蓋をしないで考えたり話し合ったりしたほうが良いはずです。
わかりやすい教育ツールの開発や教員の育成ももちろん重要ですが、この価値観を変えていくことも非常に重要ではないかと思いました。
ではまた。
人事異動の季節~異動も悪いことばかりじゃない
4月は人事異動の季節。筆者の身近でも人事異動の話をよく聞きますし、新聞でも人事異動の記事がとても目立ちます。
ただ、筆者は30年以上サラリーマンをしていますが、実はちゃんとした人事異動の経験がありません((;^_^A)。転職経験はあるのですが、特殊な仕事についているためで、仲間内ではかなり珍しいのではないかと思います。
そんな私なので、人事異動の悲哀は実感がないのですが、逆に客観的に語ってみたいと思います。
■「人事異動あるある」
つかみに、人事異動をめぐってよく聞く話を書いてみようと思います。都市伝説的なものであり、真偽については定かではないですが、基本的にネガティブなのが多いですね・・・。
・結婚すると人事異動
・家を建てると転勤の辞令
・変な時期の人事異動は「わけアリ」
・人事異動のパターンを見れば出世コースかどうかがわかる
■人事異動とは
一般に人事異動といえば、同じ会社の中で別の部署に異動することをいいます。
転勤を伴う場合もありますし、転勤を伴わない本社内の別部署への異動もあります。
人事異動のタイプをおおざっぱに分類してみましょう。
1)仕事の内容が大きく変わるもの
例えば、人事部勤務だった人が、経理部勤務になったり、営業部勤務になったりというケースです。
このケースは、担当する仕事がかなり大きく変わりますので、仕事を覚えなおさなければなりませんから、なかなか大変だと思います。
なぜそんな非効率なことをするのかというと、「色々な仕事を経験することで、会社全体のことを理解させる」というのが大きな狙いになっていると思います。
あるいは、若手であれば、その人の適性を見極めるために、複数の仕事をさせてみるといった狙いもあると思います。
2)仕事の中身はあまり変わらないもの
例えば、仕事の中身は同じで、営業所が変わるようなケースです。横浜支社勤務から仙台支社勤務といったものですね。
このような人事異動は、営業という仕事自体は変わらないのですが、いくつかの狙いがあると思います。例えば、
・マンネリ感の解消
・顧客や同僚との癒着の防止
といったものが挙げられます。
マンネリ解消は、転勤によって気分転換を図るもので、これは比較的わかりやすいと思います。
一方、癒着の防止は、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、顧客や同僚との関係が長くなると、癒着、緊張感の欠如といったことから、不正が起きる可能性が高まるという懸念があり、これを避けるために定期的に異動させるということです。これは役所や金融機関などでよくみられるように思います。
3)会社の戦略上の理由によるもの
これは、例えば新しい工場を作る場合や、海外に営業拠点を新設した場合など、にその立ち上げのために現地に転勤するといったケースです。
仕事の内容はある程度それまでの経験が生かされることが多いと思いますが、新たなことを始めるわけなので、大変な反面、やりがいも大きいと思います。
■人事異動はネガティブなもの?
「人事異動」には、少なからずネガティブなイメージがあるように思います。
「せっかく仕事を覚えたのにまたやり直しで、スキルが身につかない」とか、「また人間関係を作らないといけない」、あるいは単身赴任などのように「家族や親しい人や友人と離れなければならない」、といった感じです。こうした感覚がエスカレートすると「転勤や人事異動がない会社に行きたい」という風に思うかもしれません。
ただ、実際には、人事異動があることで、次のような良い面もあると思います。(これは筆者が人事異動のないヒトだったので、逆に人事異動がないことのデメリットとして感じたことでもあります)
・自分の向いた仕事や環境に出会えるかもしれない
配属された仕事が自分にフィットしない場合もあると思います。そうした場合、一生その仕事をするのかと思うと気が重いですが、人事異動があれば、会社を辞めずにリセットするチャンスがもらえるわけです。
・相性の悪い上司から逃れられる
上司とソリが合わないとか、上司に目をつけられてしまうと、人事評価も芳しくないですし、昇進もさせてもらえないので、つらいサラリーマン生活になりますが、一定期間ごとに人事異動があればそうした上司と離れられます。
・新しい経験や出会いによる成長
今の仕事がそれなりに満足できるものである場合でも、より多様な経験をすることで自分の能力の拡大ができる可能性が高まります。専門領域に特化するだけではなかなか付加価値は生み出せませんが、異なる経験を加えることで新たな価値が生み出せるということです。もちろん、人との出会いも、自分に大きな刺激を与えてくれると思います。
■サラリーマンはみんな人事異動しているのか
人事異動の季節になると、たくさんの人が異動するような感じがしますが、日本全体でみると、私のように人事異動を経験していない人はある程度いるように思います。
例えば、中小企業の場合は部署や拠点が少ないので人事異動させる場所がそもそも少ないでしょうし、研究職なども業務の性質上あまり異動はないと思います。また、工場の現場で働く人や病院で働く人は、働く場所が変わっても仕事内容があまり変わらない異動(上述の2つめのケースですね)も多いように思います。
また、最近では、「地域限定職」といって、住居の移動を伴う人事異動がない職種も、一部企業で導入されています。
なので、本やドラマに出てくるような人事異動をみんなが経験するわけでもないということだと思います。
■海外にも人事異動はある?
「日本では人事異動が年中行事だけど、外国の会社や、日本にある外資系企業では、あまり人事異動はないみたい」という話を時々聞きます。「転勤したくないから外資系がいいかもね~」という感覚を持つ人もいるかもしれません。
確かに外資系企業ではあまり人事異動がないように思います。(そのかわり転職が多い印象ですが)。
とはいえ、外資系企業でも、本社から来た外人が社長や部長をしていることはけっこう多いです。彼らは人事異動で来ているので、外資系だから人事異動がないわけではないと思います。
ただ、日本の会社に比べると、専門性が重視される(=言い換えれば、自分の担当領域に集中するだけでよい)という感覚なので、人事部から経理部といった異動はあまりないように思います。
■終わりに
以上、筆者自身の限られた経験の中でコラムを書きましたが、実際には人事異動をめぐって色々な状況があると思います。
お読みいただいた方のお考えや経験などもお聞きできれば非常にうれしいです。
ではまた。
コロナと新人教育~今だからこそ人材教育に力を!
コロナ感染拡大から1年。2020年の新社会人は、人生の船出に大きなハードルに当たってしまいましたね。
巷ではリモートでの研修や教育を活用せざるを得ないようですが、課題は多いと思います。
そんなわけで、今回はウィズコロナ下での新人教育について考えてみます。
■新人教育の機能・目的
自分が新人だったのは30年以上前ですが(笑)、その頃を思い出しながら考えてみると、色々な機能・目的があったように思います。
1)自分が担当する仕事を覚える
これは一番わかりやすいですが、自分が入った会社の業務を理解し、その中で自分が担当する仕事の詳細を覚えるというものです。
事務職であれば事務の内容や手順を覚えますし、営業職であれば自社商品の知識や販売方法などを覚えなければなりません。例外的に、研究職などでは大学時代とやることが大きくは変わらないケースはあるかもしれませんが。
これらの知識は、マニュアルや文書が整備されていることが多いので、そうしたテキストを見つつ、オンラインの説明で各自が習得することもある程度可能と思います。
2)社会人としての基本的なふるまいを身に付ける
いわゆるマナーですね。電話の話し方とか、名刺の渡し方、スーツの着こなしといったことです。
これらは、私の時代は集合研修+職場配属後に先輩に指導されて身に付けましたが、今はオンラインで各自が学ぶことができると思います。最近は動画も豊富であり、就活の前にこうした動画等を見て身に付ける人も多いかもしれません。
また、1対1でロールプレイングをするなどで、本人が気付いていない直すべき点を先輩が指摘することも、ZOOMなどのビデオカンファレンスを使えば実施できます。
3)仕事の進め方を覚える
「仕事の進め方」とは、チームワーク、あるいはいわゆる「報・連・相(上司等への報告・連絡・相談)」、あるいは交渉力などが挙げられます。
会社での仕事は、一人で行うものはほとんどないですし、また自分の仕事の結果が会社や同僚に大きく影響するものです。学校の勉強は、成績が悪くても自分(と家族)が困るくらいですが、仕事はそうはいきませんので、チームワークや「報・連・相」が非常に大事です。
また、単にルーティンワークをこなすだけではなく、新しいことをやろうとしたり、改善したりするのが本当の意味での「仕事」ですが、こうした時は周囲の理解を取り付けることが必要であり、交渉力が必要です。
さらに言えば、交渉力というのは単に押しが強ければよいというものではなく、相手の立場も尊重しながら気持ちよく納得してもらうといったスキル(「人間力」と言ったりもします)も必要です。
こうしたことは、学生時代も部活などである程度は習得できるかもしれませんが、会社では年齢が大きく異なる人が相手になること、そして会社は結果を出さなければならないことから、より高いレベルのスキルが必要です。
私の場合は、こうしたスキルは、同じ職場で働く上司や先輩の行動を横で見たり、自分自身が上司のサポートを受けながら交渉に臨むなどで少しずつ身に付けていったと思います。しかしウィズコロナ時代では同じ空間を共有する時間が制限されているので、こうした経験をする機会が減っているのではないかと思います。
4)仲間を作る
学生時代と大きく環境が変わり、仕事に対する責任も生じる中、色々苦労をすることも多いですが、その時に支えになるのは、同期入社者やすぐ上の先輩などだと思います。
上司には相談できないことでも、境遇や年齢が近い仲間になら、多少の愚痴も言えますし、より的確なアドバイスが期待できます。
また、こうした人間関係は、将来の社会人生活でも大変貴重です。普通なら無理なお願いを聞いてもらったり、貴重な情報を教えてもらったり、人を紹介してもらったり、といったことを私も何度も経験しています。
ウィズコロナ時代で直接会ったり飲み会をしたりが難しい中、仲間をいかに作っていくかは大きな課題です。
5)会社に対するロイヤリティを持たせる
これは会社側のニーズですが、多くの企業では「集合研修」で集まって生活するということも、会社に対するロイヤリティを高めるツールとして機能していたように思います。
尤も、この点は今の若い人の価値観には合わないかもしれませんが。
■ウィズコロナ時代の新人教育の課題
こうした変化を踏まえ、これからの新人教育の課題を考えてみましょう。
1)成長の確認
オンラインコンテンツが提供されても、個々の新人がちゃんとそれを習得できているかの確認が重要ですが、これがウィズコロナ時代には難しくなっていると思います。
オンラインであっても、新人に対して密にコミュニケーションを取り、本人にフィードバックすることが今まで以上に大事になっています。
そして、これを担う上司や先輩たちの負担は増えますから、会社からのサポートも重要になります。
2)仲間や相談相手の確立
仲間や相談相手がいないと、仕事を覚えるのに時間がかかるだけでなく、孤独感や無力感を感じるなど、メンタル面でも影響が生じます。
積極的な新人であれば、オンラインであっても自分からどんどん動いて仲間を作っていけるかもしれませんが、消極的な人やおとなしい人はそれができない場合もあると思いますので、上司や会社は特にこうしたケアにも気を配る必要があります。
3)「働くこと」の体感
自分は学生時代に家庭教師くらいしかアルバイトをしなかったので、就職するまで「働くこと」のイメージが漠然としていたように思います。なので、就職し、決まった時間に起きて出勤し、先輩や上司の指導を受け、同僚の働き方を見、ランチや飲み会を一緒することを通じて、「会社ってこういうところなのか」「働くということはこういうことなのか」を学びました。
オンラインになると、こうしたリアルな会社生活を実感する機会が限定されますので、「働くこと」の実感をいかに持っていけるかが、その後のその人の働き方を左右するように思います。
■最後に
ネガティブなことも多く書きましたが、新しい技術も増えていますし、きっと、工夫で乗り越えられると思います。
どんな時代になっても、「人材」は企業の存亡を左右する大きな資源です。会社や経営者は、人材教育への投資の重要性を再確認して取り組むべきでしょう。
では、また!
投資の理論 基礎の基礎(その2)
みなさまこんにちは。
前回のブログは総論的に、投資に伴うリスク(不安)をどう捉えればよいかを説明しました。
business-issues-watch.hatenablog.com
今回は、現実の投資の方法について具体的に説明します。
3.実際の投資対象
(1)どんな投資対象があるの?
今回は、実際に我々が投資できるものについて説明します。
大雑把に言うと、次のように分類できます。
①預貯金
銀行預金のことです。基本的に引き出しが自由でかつ元本が保証されるため、収益性は最も低いといえます。
②不動産
本来は居住したり事務所を構えるのが不動産の目的ですが、不動産を買ってマンションを貸すなどすれば家賃収入が得られますので、投資対象となりえます。
③有価証券・・・債券、株式
文字どおり読めば「価値のついている証券」ですが、言いかえれば「お金を借りている証書で、市場で転売できるもの」という感じでしょうか。
債券は国、地方自治体、企業などがお金を借り入れるために発行しているものです。なので、債券を買うということは、発行者にお金を貸すということです。従って、満期がきたら元金を返済すること、借入中は利息を支払うこと、が証券に記載されています。発行体がつぶれない限りはこの約束が守られる仕組みで、仮につぶれてもその企業になにがしかお金が残っていれば返済義務がありますから、投資家にとっては比較的安全な投資先といえます。
株式は企業が資金を出資してもらうために発行しています。債券との違いは「お金が返って来ない可能性があること」です。出資したお金を使って企業が大きな利益を挙げた場合はその配当が投資家に還元されますが、企業が事業に失敗すれば配当がないばかりか出資金も戻らないということです。加えて、債券と違ってお金を返す期限(満期)がないので、その意味でも、お金がいつ戻ってくるかが不確実、ということです。ただし、逆に企業が大きく成長すると、配当だけでなく、株価の値上がりや、株式の分割(1株持っていた人にもう1株もらえるイメージ)などの収益が得られます。最近だと、正味の株価が30年で78倍になった企業が話題になっていましたね。
④派生証券
上のような資産を組み合せたり加工して2次的に作りだされた証券をいいます。
代表的なのは転換社債です。これは「株式に転換できる権利がついた債券」なので、株式と債券の中間的な性質をもっています。
また、最近はデリバティブ技術の発達で色々な派生証券(オプション等)があります。テレビCMが多くなっている「FX」も、派生証券を使った投資の1つです。
派生証券の存在意義は「株式」と「債券」にはないさまざまなリスクリターン特性をもつ投資対象を用意できることにあります。例えば「株式よりリスクが2倍になるがリターンも2倍期待できる」投資対象が欲しい人もいますので、幅広いニーズに答えていけるということです。
個人投資家も利用できる商品はありますが、実際は投資リスクが大きく仕組みも複雑なので、本稿では深く述べません。
世の中にある投資対象を専門の会社が運用し、その収益を投資家に還元する商品のことをいいます。
運用会社への報酬がかかるため、直接上記の投資対象を買うよりもコストはかかりますが、専門会社が運用することでより効率的な運用ができると期待できます。
上記のどの投資対象に投資しているかによって、これら金融商品のリスクリターン特性はさまざまです。投資信託でもMRF(マネー・リザーブ・ファンド:短期債券で安全に運用)はリスクがほとんどありませんが、外国株式投資信託はハイリスクハイリターンです。
以降、各対象別に、もう少し詳しい説明をしていきます。
(2)預貯金
法律的には銀行や郵便局の預金を指します。これらは元本が保証され、利息が付くというものです。
ただし、銀行が倒産した場合にはこの「元本保証」がつかない可能性があります。「ペイオフ」という仕組みで、1000万円以下は預金保険によって元本が保証されるものの1000万円超部分はカットされるというものです。加えて異常な低金利ですから、銀行預金は有利な投資対象とはいえなくなってきています。
(3)不動産
「土地神話」なる言葉もあったように、不動産は戦後からバブル期まで一貫して上昇しましたので、買っておけば値上がりする優れた投資対象であると認識されていました。しかしバブル崩壊後は値下がりを続け、土地神話は崩れたといえます。
一方で、長い目で見れば、不動産は「インフレヘッジ機能(物価が上がると不動産価値もあがるので、資産の実質的な価値が下がらないこと)」がある数少ない資産ですから、本来は有用な投資対象であるといえます。
なお、以前は、不動産は購入単位が大きいため買える個人が少なく、適切な価格形成ができにくいですが、これも「不動産の証券化」という手法で解決されました。具体的には、REIT(不動産投資信託)という商品が普及しており、(広い意味での)不動産も投資対象に組み入れやすっています。
(4)有価証券
①債券
もっともポピュラーなのが国債ですが、地方債、金融債、社債などもあります。
また、国債と一言でいっても満期等が異なる様々な種類が発行されています。
現状は低金利であるため、代表的な銘柄である10年国債の利回り(満期まで保有した場合の年平均利回り)も0.1~0.2%程度です。一般に金利は満期までの期間が長いほど、また発行体の信用度(格付け)が低いほど高くなります。
債券は安全というイメージがありますが、発行体がつぶれる可能性が高い場合はよりハイリスクハイリターンの投資対象になっています。
個人投資家が国債そのものを買うこともできますが、国債の大半は金融機関が保有していて、むしろ公社債投信などの運用対象として個人投資家とつながっています。
なお、海外にもおおむね同様の債券が存在します。一般に日本より金利が高いため魅力的ですが、為替変動リスクに注意が必要です。
②株式
株式は昔から個人投資家に縁の深い投資対象であり、保有シェアも多くなっています。売買ができる市場はいくつかに分けられていて、取引所は東京、大阪等にあります。東京の場合は更に1部、2部、ジャスダック、マザーズに分かれています。また、海外にも世界各国に株式市場があり、これらを利用する人も出てきています。
東証1部には1500もの企業の株が上場されており、日本を代表する市場です。上場には一定の条件があるため、ある程度の成長を遂げた「オトナの企業」がほとんどです。ただ成長期を過ぎてしまった企業も少なくないといえます。発行株が多く、成長率がさほど高くないため、店頭株に比べると株価の変動率は小さいのが一般的です。
東証2部は500社ほどの企業が上場しています。1部に比べるとやや小さい企業が中心です。
ジャスダックやマザーズへの株式公開基準は取引所上場基準より緩やかであるため、いわゆる新興企業やベンチャー企業が多いのが特徴です。まだ評価が定まらない企業であるため、株価の変動が大きくなりがちですが、夢は大きいかもしれません。
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(5)投資信託
最後に、「投資信託」です。
①投資信託の特徴と意義
投資信託は、多くの人からおカネを集め、合同で運用する「ファンド」です。
集めたおカネは株式や国債など各種の投資対象で運用され、それによって得られた収益を一定のルールで分配します。運用の結果、利益が出ても損失が出ても、それは投資家に帰属する仕組みとなっています。以下に特徴を箇条書きします。
○合同運用であるため、小口資金でも投資が可能
普通、証券会社で株式を買おうとすると少なくとも10万円程度以上の資金が必要になりますし、値段の高い株は相当の資金が無いと買えません。優良企業では100万円以上の資金が必要な株も少なくないですし、ITバブルの頃は、YAHOO株を買おうとすると何と1億円も必要でした。でも、投資信託ならば小口の資金でも株式の値上がり益を狙うことが可能になります。「皆でおカネを出しあって株を買う」わけです。そして、現物証券を買うよりも分散投資がしやすくなります。
○実際の運用は専門家が行うため、知識や時間のない人でも投資ができる
実際の株式を買うとなると、「上がりそうな株式を探し、できるだけ安く買えるタイミングを狙って買い、値上がりしたところで売る」という段取りになりますが、忙しい人や勉強する時間が無い人がこういうことをきちんと行うのはかなり大変ですので、プロに代行してもらって効率的に資産を増やそうということです。なお、プロに任せる以上、相応の報酬がかかることになります。
ということで、投資信託という名前は、「プロを信じておカネを託す」ということだと理解してください。
蛇足ですが、投資そのものを楽しみたい人、勉強したい人にとっては、投資信託より現物株のほうが魅力があります。上がりそうな株式を探してくるのは結構楽しいですし、経済にも詳しくなりますしね。
②大雑把な分類
実際の投資信託は何百種類もありますが、大きく分類すると「株を中心に積極投資する株式投信」、「安全を重視して債券を中心に運用する公社債投信」、「株式と債券をある程度ずつの割合で組み入れるバランス型投信」に分けられます。
これらのどの分類の投資信託を買うかは、投資家自身が決めなければなりません。その意味で、投資信託は「運用をプロに代行してもらう」とはいっても、完全なおまかせではありません。
株を中心に積極投資するのか、安全を重視して債券を中心にするのか、といった点は貴方自身が生活設計などを考慮して自分で決めなければならないのです(この点は改めて解説の場を設けます)。
③投資信託の選び方
何百もある投資信託。資産運用の仕方も千差万別です。でも、運用に失敗した場合でも損失の補填はないわけですから、大切なおカネの運用を託す以上は「その投信はどんな運用をしようとしているのか」、つまり「運用方針」をあらかじめ知っておくべきです。
一般に、運用方針としては次のような項目を抑えておくべきであり、投信運用会社自身もこうした方針を必ず開示していますので、購入にあたってはよく確認しておく必要があります。
○投資対象は何を中心にするのか
前回お話した「大雑把な分類」を把握するということですね。
株式を中心に運用するのか、国債中心なのかなどです。
○どのような株式を買うのか
全業種を平均的に買うのか、特定の業種を重点的に買うのか?です。
最近情報通信銘柄を中心に運用するファンドが非常に多くなっています。
こうしたファンドを「テーマ別ファンド」といいますが、この多くは業種別ファンドといえます。
一般に、特定業種を重点的に買うほうが価格の変動リスクは大きくなります。
○どうやって値上がり益を得ようとするか(運用スタイル)
・成長しそうな企業を人手をかけて探すことで大きな値上がり益を狙う。
(ボトムアップアプローチなどといいます)
・株価の周期性等を利用し、割安になったら買って割高になったら売る。
(クオンツ運用などといいます)
・特に動かずに、市場平均なみの平均的な値上がり益を狙う。
(いわゆるインデックスファンドです)
などなどです。
ちなみに、上の2つは市場平均を上回ることを目指すものであり、「アクティブ運用」といいます。 一方3つ目のは市場平均並を目指すものであり、「パッシブ運用」といいます。
ちょっと専門的になりましたが、より理解を高めていただけるよう、レストラン選びに例えてみましょう。
○何のレストランなのか。和食か洋食かイタリアンか?はたまた何でもあるのか?
○人並みの味を安く提供するレストランなのか、高いけど他より良い味を目指しているのか?
○素材を探し歩いて厳選しおいしい料理を出すのか、普通の素材を料理方法でおいしくするのか?
といったところでしょうか。
なお、投信を評価する会社というのがあり、こうした視点による評価結果を公開していますので、参考にするとよいと思います。レストランを選ぶときに、全部は味見できないので「ミシュラン」を参考にするというのと同じですね。
投資の理論 基礎の基礎(その1)
0.はじめに
コロナ禍で経済活動の低迷が心配されましたが、個別には厳しい状況の業種もありますが、全体としては意外に堅調です。
こうした背景もあってか、世界の株式市場はこの1年間活況であり、日本の株も日経平均が30年ぶりに3万円の大台を記録しました。
加えて、人生100年時代と言われる中で老後資金の確保をどうするかは、多くの人の関心になっていると思います。
一方で、日本人は投資に不慣れな人も多く、投資への不安や不信感がある人もいるでしょう。
そこで今回のブログでは、投資を理解するための「理論」を、できるだけ平易にわかりやすく解説してみたいと思います。
長くなるので、2回に分けて解説します。第1回目は総論的に、投資に伴うリスク(不安)をどう捉えればよいかを説明し、第2回では、現実の投資の方法について具体的に説明します。
1.投資理論とは?
「株価は不確実で将来どうなるかが予測できない」というのが多くの方の印象だろうと思います。
しかし、この問題に果敢に挑戦してきた先人がたくさんいます。そして、ある程度までは株価を理論的・具体的に評価する枠組みが出来上がっています。アメリカはこうした研究が最も進んでいる国であり、これらを総称して
現代投資理論(Modern Portforio Theory、略してMPT)
といいます。
もちろん現実は生き物ですから理論どおりにならないことも少なくありません。予想が外れることもあります。ですが、一定の条件をおけば、こうしたリスクをかなりの確率で回避でき、結果として大きな果実を得ることも可能になります。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」といいますが、虎の習性を知って例えば虎が獲物を取りにでている時間が予想できれば確実に虎児を得ることができます。作戦なしにやるのとは違うわけです。
ということで、投資理論というのは、一言で言えば「いかにリスクを避けながら、高い目標に近づくか」という理論だといえます。もう少し詳しく言えば
「株価が上がりそうな銘柄を見つけ、下がりそうな銘柄を避けること」
とか
「下がる可能性を低くすること」とか「途中で価値が下がっても困らないようにすること」
などを目指すものともいえます。
さて、投資理論は数学(統計学)と密接に関係しています。株価などを予測する上では数学が有効かつ合理的だからです。以降のお話では時々数学を用いますが、拒否反応を起こさないようにできるだけ簡単に説明していきます。
2.投資のリターンとリスク
(1)リターンとリスク
投資の計画を立てる上で必要なのが「この商品はどの程度の利回りが期待できるのか」「それは確実に期待できるのか否か」という数字です。それぞれに対応するのが「期待収益率」、「リスク」です。
期待収益率は読んで字の通りであり、理解しやすい概念だと思います。問題はどうやって予測するかです。実際、「期待収益率はあまり当たらない」という研究もある位です。
一方、「リスク」という言葉は現実には色々な意味で使われます。直訳すると「危険」ということになりますが、投資における広い意味での「リスク」は「価格が値下がりすること」と「おカネが必要なときに引き出せないこと」の2つに集約されると思います。しかし、現代投資理論でいう「リスク」はもっと狭い意味で「期待収益率からどの程度外れるか」ということを意味します。
例えば「定期預金」は金利が決まっているので1年後にもらえる額は決まっており、狭い意味でのリスクはゼロということになります(←→銀行が倒産する可能性を考えると、広い意味ではリスクゼロではない)。
対して、日経平均株価を例に取ります。例えば、現在3万円の日経平均株価が「1年後に3万3千円になる」との説を前提にすると、これは今より3千円程度の値上がりを予想しているわけですから、期待収益率は10%(=3千円÷3万円)ということになります。しかし確実に3万3千円になるわけではなく、2万5千円に下がる可能性もあるし、逆に3万5千円まで上がる可能性もあるわけです。
このような「期待収益率に対するぶれの大きさ」を計数化したものが「リスク」です。
前に紹介した研究ではこの「リスク」は比較的過去の実績から予測できるとされています。「1年後に3000円程度の予想のはずれはありうるものの、1万円も外れる可能性は小さい」ということです。まああたりまえの話ですが、これを具体的数値にすることに意味があります。具体的数値にすることで、日本の株式だけでなく国債や海外株式などの特性を比較し、これらの資産を組み合わせた時に起こることを予測できることに意味があるわけです。
(2)リスクへの「態度」
人間がリスクをどう考えるかはさまざまですが、大きく分けると「リスク愛好者」と「リスク回避者」の2つに分けられます。
○「リスク愛好者」
投資理論で言うリスクとは、「期待値からはずれる可能性」を意味していると説明しました。
ということは、いいほうに外れることも「リスク」であるということです。
リスク愛好者はまさに「いいほうに外れる」ことを期待して行動している人です。
宝くじを買うときの人間はまさに「リスク愛好者」としてふるまっています。
競馬は?・・・見解の相違はあるでしょうが、筆者はこれもリスク愛好者的行動と認識します。
こうした「いいほうに外れるリスク」を狙って、外れるリスクの高そうな投資対象に積極的にトライする人を「リスク愛好者」といいます。
○「リスク回避者」
こちらは逆に「悪いほうに外れる」ことをリスクと考え行動する人を指します。
一時期、銀行がつぶれそうだということで、預金をつぶれそうもない銀行へ移しかえる動きが活発化しましたが、これはまさにリスク回避的行動です。
さて、現代投資理論では、一般には「リスク回避者」の立場で物事を考えます。従って、「リターンが大きいほうがよい」というのは誰でも同じ考えでしょうが、「リスクは小さいほうがよい」と考えるわけです。以降の説明ではこうした前提が含まれていることを覚えておいてください。
(3)「ポートフォリオ」によるリスクの分散
株式の価格は不確実ですが、こうした不確実さを小さくするにはどうしたらいいでしょうか?
その一つの答えは、「ポートフォリオ」をうまく構成することです。
株式といっても色々あります。伝統的な大企業の株もあればベンチャー企業もありますし、製造業の株があればサービス業もあり、ということです。そして、各々の特徴を反映して、これらの株価の動きは同じではありません。
例えば一昨年のように金融危機が起これば体力のない小企業は売られやすいし、そのときの業績や注目度によって業種毎の値動きは異なります。
こうしたことを考えると、ただ一つの会社の株を買うよりも複数の特性の異なる株に分散して投資したほうが「値下がりの可能性を極力小さくする」ことになります。なぜなら、どの株も同時に安くなる可能性は、ある特定の株が値下がりする可能性よりかなり低いからです。ただ一つの会社の株に投資した場合はその企業が倒産すると資産はほとんどゼロになってしまいますが、分散投資していれば被害は何分の1ですみます。
さて、現代投資理論では、こうしたことも数値化して評価します。A社の株とB社の株に分散投資するとすると、A社株とB社株の値動きの相関関係を数値化するのです。つまり
「A株が10%値下がりする場合B株はどの位値下がり(値上がり)するか?」
を考えるわけです。
ここで、
①「A社株が10%値下がりする場合にB社株も10%値下がりする」
のだとすると、分散投資の意味はありません。A,Bが同じ業種、規模、であればそのような関係にあることもあります。逆に、例えば「石油会社のように、円高になると原油が安く調達できるのでもうかる企業」と「輸出企業で円高だと減益になる企業」の株は、
②「A社株が10%値下がりする場合にB社株は8%値上がりする」
ということになり、こうした企業の株に分散することは「分散投資」によってリスクの減少がはかられることになります。
さて、上記で説明した、相関関係をあらわす数値を「相関係数」といいます。統計学で習った覚えがある人も多いでしょう。上記の①のケース(A社株が10%値下がりする場合にB社株も10%値下がりする)では相関係数は「1」となり、②のケース(A社株が10%値下がりする場合にB社株は8%値上がりする)では「浪貼0.8」となります。こうした数値をうまく用いれば、さまざまな特性をもつ多数の株式をうまく組み合わせて、リスクの小さいファンドを作ることが可能になります。
尤も、この「数値」は一般に過去の実績で計算しますから、将来の環境の変化に左右される可能性があり、絶対的なものではありません。A社がM&Aをやって全然違う業種の部門を傘下に持ったなら、過去の実績はあまり役に立たなくなってしまいますよね。
さて、この議論は、株式の銘柄についてだけではなく、「株と国債」などにもあてはまります。一般に金利があがると債券の魅力が増し、安全性で劣っている分だけ株価は下がると言われています(最近はかならずしもあてはまりませんが)。つまり浪貼の相関があるわけです。よって、株と債券に分散投資することは、将来の金利の変化が起こってもファンドの価値を極力減らさない策になるということです。
なお、あくまでこれは「リスク回避者」の立場からの議論であり、「リスク愛好者」の立場からは逆です。つまり、「ある特定の会社の株が2倍になる」場合はその株に100%投資する方が分散投資しているよりも結果が良くなるのは自明です。リスク愛好者はそれを期待していくわけです。ちょっと怖いですけどね・・・。
ここまででお話したことはリスクを抑える方法の一つで、「銘柄分散」とか「資産分散」といわれています。一方で、「時間分散」というリスク抑制策もありますので、次はこれについて説明します。
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未来予想図
今日は陽気に誘われてランニングし、その最中にドリカムの「未来予想図Ⅱ」が流れてきました。
勇気をもらえる曲ですが、「ほら 思った通りに かなえられてく」って歌詞を聴くと「そんなに上手くはいかない」と感じることもあるかもしれません。
◼️未来予想図は無意味?
そうなんです。
たてた計画が思った通りに進むなんてことは、ことビジネスについては期待できないと思います。
だって、たくさんの競争相手がいて、みんな色んな戦略を考えて取り組みますし、加えて経済や社会の変化は予想できないですよね。
例えば、2年前にコロナのことを予見できた人はほぼいなかったと思います。
そうなると、未来予想図を作ったって、意味ないじゃん?となりそうですが、そんなこともないと私は思っています。
◼️未来予想図の意味その1
未来予想図を作るときは、自分がどうありたいか、どういう人生を歩きたいかを考えると思います。
これは、自分の生き方、過ごし方を律し、ブレずに取り組むための指針になるものと思います。
「目標がその日その日を支配する」という名言がありますが、まさにそうで、未来予想図が日々の過ごし方を支配し、その積み重ねが将来の自分を作るのだと思います。
◼️未来予想図の意味その2
「でも、思いどおりにならない将来予想を前提に努力しても空しいんじゃない?」という気持ちもあるかもしれません。
これもよくわかります。
計画を立ててもその通りすすむことなんて、ほとんどないですもんね。
けど、それでも未来予想図は大事だと思います。なぜなら、
・未来予想図がないよりも、あったほうが確信を持って前に進めます。
・描いていた未来予想図を振り返ることで、プロセスや結果が違っていた理由を分析することができます。
◼️終わりに
私も、計画がその通り進まずにイライラしたり焦ったりすることはしょっちゅうです。
自己嫌悪にもしばしば陥りますから、全然偉そうなことは言えません。
それでも、やっぱり、未来予想図を作って、当たらなければ随時見直して、そうして日々取り組むことが大事なのだと思います。
何だか、他愛もないブログで恐縮です。
でも、こんな普通の日常から気付かされることも意外と大事なんじゃないかなと思った1日でした。
ではまた!
コロナと新人教育~大学生より大変かも
コロナで激変した我々の生活。
最近のニュースなどでは、新たに大学に入った学生たちがオンライン講義のみで大学に行けず、友達ができない、実家からリモートなのに下宿代はかかる、バイトができず生活が苦しい、それでも大学の授業料は変わらない、といった問題点が指摘されています。また就活の大変さも出てきているようです。
一方で、昨年までに無事に就職できた新人や若手の教育においても、在宅勤務が主となる中でさまざまな課題があるように感じます。
■これまでの新人教育
日本の場合、新卒採用が主なので、会社に入ったばかりの新人の大半は、すぐに一人で仕事ができるわけではないと思います。なので、集合研修で基本的なことを学びつつ、職場に配属された後もOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で仕事の細かい手順や進め方を学んでいきます。大学は職業訓練の場ではないので、こうしたことはあまり学べませんし、また会社においても業務の手順や進め方などは会社ごと・部署ごとに異なる場合も多いので、OJTの役割は大きいと思います。
研究職であれば、大学での研究活動の延長戦でできる面もあるかもしれませんが、それでも、大学の時はお金やビジネス化のことをあまり考えないで取り込めたのが、会社に入ればこうしたことを考える必要があり、他の部署(商品開発部門や企画部門など)とのコミュニケーションも必要であり、この辺はOJTが必要と思います。
さて、新人・若手教育で身についてもらうべきことは何でしょうか?思いつくものを列記してみます。(もっとあるとは思いますが)
項目 |
内容 |
就職前に得られるか? |
担当業務の基礎知識 |
業界知識、業務に関する法律など |
ある程度可能 |
汎用的な知識・能力 |
IT知識、語学、会計など |
かなり可能 |
担当業務の固有知識 |
会社のルール・システム |
得られない |
会社のルール |
役割と権限、各種ルール(勤怠管理・経費精算・報連相など) |
ほぼ得られない |
ビジネスマナー |
挨拶、電話対応、名刺交換、言葉使い |
ある程度可能(バイトなどの経験で) |
企画力・交渉力 |
新規業務や業務改善を企画し、それを認めてもらって実行するなど |
ある程度可能 |
スケジュール管理・タスク管理力 |
複数の業務を並行して期限通りに終わらせる能力 |
ある程度可能 |
チームワーク力 |
自分の役割を認識して他のメンバーと円滑に協力できる力 |
ある程度可能 |
コミュニケーション力 |
相手に自分の要望を受け入れてもらえるような関係作り力(逆も必要) |
ある程度可能 |
■コロナと新人教育
コロナによって在宅勤務が多くなった職場も多いと思いますが、それによる新人教育への影響はどのようなものがあるでしょうか?
まず、多くの研修はオンラインで提供されるようになっていると思います。
例えば、新人全員に共通するテーマ(例えば会社の部署の紹介や、勤怠管理といった共通ルールなど)はビデオコンテンツを流すことでできるので問題はないと思います。マナーなどの研修も、少人数でインタラクティブに行えばそれなりに教育できそうです。
また、部署ごとの業務関連知識やルールについても、上司や先輩がオンラインで説明することが可能と思います。
ただしその前提として、業務関連知識やルールが網羅的に整理されていないと、説明の漏れが生じます。これまでだと、こうした説明漏れがあっても、実際の業務中に先輩が気付いてタイムリーに指導してくれたり、一緒に仕事をしている同僚が補足してくれたりしてカバーできたと思いますが、在宅勤務下ではこれが難しくなっていると思います。
なので、これまで暗黙知であった業務関連知識をできるだけ文書化やAI化していくことや、ルールに関するものはできるだけシステムでチェックするといったことが必要だと思います。
また、「企画・交渉力」や「コミュニケーション力」いわゆるソフトスキルについては、座学で身に付けるのは難しく、これまでは上司や先輩の立ち振る舞いを見て学んだり、上司・先輩が新人の行動ぶりを見てタイムリーに欠点を指摘して直していくことも多かったと思います。そう、コロナ禍では、この「他人の行動から学ぶ」ことや「他人に見てもらって指導される」ということが難しくなっているのです。
さらに、わからないことがあった時に、「誰に聞けばよいかわからない」「こんなことを聞いていいのか心配」という人も少なくないと思います。
このままだと、仕事に必要なことが身につかないまま中堅社員になっていき、企業の競争力や実務能力が低下し、社会に提供される商品やサービスの質も低下していくのではないかと懸念します。
この辺りは対応がなかなか難しいですが、上司や先輩ができるだけ一緒に仕事をする機会を増やすとか、部下との定期的なミーティングの実施、あるいはVRや動画コンテンツなどを使ったベストプラクティスの紹介、そしてプレゼンや営業トークのロールプレイングの実施などで対応していくことはできそうです。
■若手のメンタルケア
上記のように仕事をなかなか覚えられない悩みに加え、人とあまり接しないで過ごすので、精神的にも不安が大きくなりがちです。悩みの内容は、仕事に限らず、人間関係だったり、家族のことだったり、自分の健康だったりするかもしれませんが、特に奥ゆかしい人・おとなしい人が知らず知らずに悩みを抱えていることを周りがなかなか気付いてあげられないこともありそうです。
こうしたことでメンタルを病んだり、会社を辞めてしまったりするのは、本人はもちろん、会社にとっても大きな損失です。
メンター制度やインストラクター制度を設けて、部下が先輩社員に気軽に相談できる仕組みを設ける企業も多いですが、これの運用をより充実させることも必要かもしれません。
■まとめ
今回の要点を箇条書きでまとめておきましょう。
・コロナ禍により、新人や若手の教育は今まで通りには実施できなくなっている。
・若手の育成が不十分だと、企業の力を低下させ、社会に提供される商品やサービスの質にも影響する。
・特に独学で身に付きにくいスキルをいかに身に付けるかが重要な課題。
・企業内の暗黙知を文書化・AI化していくことなど、ITの活用は有益
・先輩や上司のきめ細かい指導が今こそ重要
ではまた。